2200系

2200系(※未完成)

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概要

 2027年に中央リニアエクスプレスが開業すると、富士アルプス特急は速度面でのアドバンスを失うことになる。現在予想されている中央リニアエクスプレスの停車駅として、甲府駅に止まる列車本数はそれほど多くはないことが予想されるため、新宿というターミナルの優位性と甲府・松本への運転頻度で対抗しうると富士アルプス特急は見ている。
 しかし、そうは言っても品川~甲府の所要時間は25分と想定されており、現時点で〈アルプス〉の所要時間が最速44分。19分差となると待ち時間を含めてもリニア優位という可能性が高い。少なくとも毎時2本が甲府に停車すると脅威となる。
 そこで、現状の最高速度を260km/hにアップし、新宿~甲府39分、新宿~松本62分を目指して企画・設計されたのが2200系だ。

車体

 車体はt2.3のシングルスキン構造としている。これは最高速度向上による軽量化が優先するため、空調能力の低下や遮音・吸音性能の低下というデメリットを呑み込んでの採用となる。遮音性能の低下はどうにもならないが、吸音性能に関しては内装材の工夫で対応している。とはいえ物理の世界でそんな都合のよいものは存在せず、2100系に比べ車内騒音が大きくなることは避けられない。
 また、軽量化を優先するため窓の幅を2100系の850mmから825mmへ、ドアの幅を1150mmから1000mmに詰めている。これによって補強を最小限にし、車体重量の増加を押さえ込んでいるというわけだ。
 富士アルプス特急は通勤新幹線として建設されたため、東海道新幹線よりもインフラが脆弱て最小曲線半径も小さい。そのため最高速度の向上よりも最低速度の向上が肝となってくる。
 2200系では空気ばねの操作による車体傾斜装置を採用。客室床面から600mmのところで3.5度車体を上方にすぼめ、床面もわずかに絞り込んでいる。これによってR=1800の曲線を230km/hまで引っ張ることを計画している。なお、結果として断面が縮小するが、このあたりも通勤新幹線としては悩ましいところでもある。指定席車なら問題はないが、自由席車は立席前提のデザインとなっており、上方で断面が縮小すると圧迫感が大きくなり、快適性を損ねる。
 一方でコンタを丸くすることで断面積が縮小されるのは魅力で、たとえば全車指定席の専用編成を造り、コンタを丸型にしてその編成だけ最高速度を280km/hにする案も検討されている。断面積10%削減はかようなまでに魅力的なのだ。
 機器については後述するが、単に最高速度を向上するだけであれば2100系でも260km/h運転は難しくはない。しかし現状、甲府~松本間に限って240km/h、それ以外は220km/hに甘んじているのはさまざまな理由があるが、そのひとつが騒音対策だ。2100系のボディでは260km/hでの騒音対策をクリアできない。
 とにかく風きり音と転道音を何とかしなくては、ということで、富士アルプス特急としては断腸の思いでボディマウント構造を採用した。ボディマウント構造は車体重量が増加し、メインテナンス性が大幅に低下するばかりではなくフィルタの目詰まりにめっぽう弱くヒートポンプやVVVFなどの冷却に支障が出るリスクを抱えるなどデメリットがたくさんある。しかしそれでも側面の平滑化により走行抵抗の減少と静音がなされるのであれば『悪魔の取引』もやむをえないというわけだ。前述の鋼体重量削減も、言うなればボディマウントのスカートで重くなる分を相殺する必要があるためだ。
 中でもとにかく気を使ったのはヒートポンプの吸入口。寒冷地を走る割にはスペースと重量バランスからヒートポンプの大きさをギリギリまで削って(=容量を落として)いるため、わずかな目詰まりが空調不調を招く。
 そこで、ボディマウント側の吸気孔にロールフィルタを取り付け、一定時間ごとにフィルタを巻き取ることで目詰まりのリスクを軽減している。また、ルーバー・フィルタ以外の部分は吸音フィンを設置して防音に努めている。
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▲1990年代はスラントノーズで空気を切り裂くやり方が主流だったが、スラントノーズは空気の流れを制御するという点で問題があり、後部車両の揺れが大きくなる問題があった。コンピュータを駆使して複雑な正面形状を作る理由は、トンネルの多い日本の新幹線では後方乱流の制御が必要なためだ。

 正面形状は260km/hでのトンネルドン対策で大きく変化した。微圧波対策で有効な方策はノーズの延長だが、ホームゲートの関係で客室扉の位置は動かせない。そのため乗務員室の手前まで2000系などに比べ110cmほどノーズを伸ばしてノーズ長を8.6mとした。110cmノーズを伸ばし、その分断面変化を緩やかにすることでトンネルドンの緩和を図ったというわけだ。
 断面積の変化率を一定にすることで空気の境界層の剥離は起こりにくくなる。断面積の変化に偏りがあると、変化の大きいところで抵抗となったり小さいところで負圧を作って剥離したりするため、結果として抵抗値が増える。空気の壁への突入は穏やかに一定の割合で空気を切り裂かなくてはならないのだ。
 一方、最後尾では側面に貼り付いた空気を整流して吸い出す必要がある。最後尾で断面に変化があるとそこに負圧ができてカルマン渦を作ってしまい、抵抗となる。それによって車両が左右に振られてしまうのが最後尾車両の振動であり、それゆえに先頭車はアクティブサスペンションを装備する。
 しかし、アクティブサスペンションは万能ではないし、できることなら機能させないに越したことはない。そこで、ノーズを伸ばして空気を誘導するお膳立てを立て、緩やかに断面積を縮小して空気を車体からすっぽ抜けさせる。これが2200系のなんともしまらないノーズデザインなわけだ。
 結果しわ寄せを受けたのが乗務員室扉で、ノーズの形に併せて湾曲する結果となった。最近ではコンピュータグラフィックスから切削図を出すことができるので(そう。このドアはアルミの削り出しなのだ!)加工自体の難易度はそれほどでもないのだが、このドア1枚に相当なコストがかかってしまっているのもまた事実だ。
 今回のノーズを構成するにあたって、2100系をベースに5,000回を越えるシミュレーションで形状を選定していった。モックアップを作って風洞に持っていく手間を一気に省けるため、製造コストの低減とより攻めた空力設計が可能となった。とはいえ最終的に候補にのぼった8種類の形状はスケールダウンしたモックアップを出力し、風洞にかけて検討した。
 この形状の真意は仮想ノーズ終端で空気を二分し、肩のの出っ張りで流速を抑えつつ、乗務員扉付近を負圧にして側面に空気を吸い出す形状となっている。ノーズ先端に仮想ノーズを設定するため、ノーズ下部に空洞を設け、下方に流し込むことで空気の断層を造り、約1,200mmより上の空気を上面へ跳ね上げている。
 また、この先頭形状は最後尾に来たとき車体側面に貼り付いた空気を効率よく吸い出す事を念頭に置いている。
 これで割を食ったのが運転台で、2000系はもとより2100系から比べてもさらに狭くなってしまった。オブザーバー席を後ろにオフセットしないと、つまり横に2人並んで座れないほど狭いコクピットとなってしまったのだ。
 ヘッドライトの位置も運転台頭上から車体裾へと大移動。新幹線の場合保守時間帯と営業時間帯が明確に分かれているので保線に対する警告としての役割をヘッドライトは求められないので、位置に自由度があるにせよ、2000系・2100系・2200系とライトの位置が点でバラバラなのはデザイン面としてたいへんよろしくないといわざるを得ない。
 車体色は従来の赤(アブンリュート・レッド)と白(ブリリアント・ホワイト)をベースとしているが、裾部の赤を今回廃止し、新たにグレー(ディクシー・グレー)を配している。ここで注目してもらいたいのが乗務員扉とその次に来る客用扉。レッドとグレーのストライプがドアを斜めに横切っているのがわかる。
 これについてはマスキングの手間がかかるため、ドアを塗装処理とせずレッドは上辺、グレーは下辺合わせのシールで処理している。塗装工程に手間をかけるのは保守上たいへんな損失なので、見た目のみっともなさよりもメインテナンスフリーの方向に向かうのが「正しい」デザインと確信している。
 窓ガラスは2100系に引き続きポリカーボネイトを使用。レシピも普通車はP10で同様だ。運転台もLHP2WP2P2P2で2100系と同じだが、エクスプレスサルーンの窓ガラスも普通車と同じP10とした。これはポリカーボネイトの透明性に対する不安が払拭されたため、ならば軽量のほうがよろしいということで2200系ではポリカーボネイトが全面採用されることになった。つまり2200系には『窓ガラスが1枚もない』ということになる。
 屋上は2100系と同様。パンタグラフは2・9号車に搭載。両パンタ間をケーブルヘッドで結んでいる。2200系は後述するがフルSiCパワーモジュール1C4Mとしたため、2~9号車の各車両にC/Iが設置されている。これを鑑みて1両単位での機器開放が容易に可能なようにケーブルヘッド接続となっている。

走行装置

 2100系から2200系にモデルチェンジを行なう理由は最高速度の向上にあるが、それにはまずこれまで以上の軽量化・高性能化が必要となる。しかし新幹線電車とはいえ投入できるエネルギには限りがあり、富士アルプス特急ではその上限を1,000Aとしている。
 その持てる資源の中で小型・軽量化を図るには、装置の小型化と低損失化が必要となる。そんななかで三菱電機の開発したフルSiCパワーモジュールを採用することで、約35%軽量化、40%の高効率化を目標としている。
 パワーモジュールのすごいところはMTrとC/Iをセットにして3.3Kv/1500Aを出力。この大電力をもって4モータを並列接続するだけでなくサービス電源も供給できる優れものだ。しかもスイッチング損失が小さいということは放熱に対しての部分が小さくできることを意味する。放熱すなわち表面積なので10倍の耐圧をもつSiC素子を使うことで機器の大きさは約1/3に、重量は2100系の7,800kgから5,050kgまでダイエットが可能となり、床下の占有幅も2,200mmから1,100mmに半減した。また、小型化にもかかわらず電力に余裕が生まれるため、普通車窓際席へのコンセント設置も可能となった。
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▲フルSiCパワーモジュールで驚異的に小型化されたコント。全長で2100系の半分、重量比で同65%と軽量化に大きく貢献。熱損失の低減は基本走行性能の向上にも寄与している。

 モータについても密閉式のインダクションモータが一度は提案されたが、外形と重量が大きくなることを嫌い、多少の騒音増を容認して外扇式のインダクションモータ、TM-2000(MB-5990A)インダクションモータ(連続定格300kw/2,300V/167A/3,300rpm/6,000rpm/369kg)を引き続き採用している。ギアリングも2100系の2.96から2.67(72:27)に変わった。これは最高速度の向上をもくろんでいるためだが、同時にシングルスキン化による騒音の低下(モータの回転数を落として騒音を抑える)も考慮した数字となっている。逆に言うと2100系でも力任せに260km/hへ引っ張ることは可能なのだ。ただ、設備がプアな富士アルプス特急では2100系では騒音基準をクリアできないため、空力面での改良が必要となり新形式を起こす必要があった、というわけである。
 また、ここでも軽量化の一環としてギアをハスバ歯車からヤマバ歯車に変更している。ハスバ歯車は平歯車に比べトルク伝達に有利で、大きなトルクを有効に活用するため鉄道車両では広く用いられたが、ハスバは漢字で書くと斜歯となることからもわかるように、トルクがかかると斜め方向への推力が発生する。
 これを打ち消すために円錐ころ軸受けを使って力を負担するわけだが、部品が増えることは望ましくないし、ころ軸受けは磨耗するうえに隙間調整も厄介で。メインテナンスフリーが叫ばれる中でこのような磨耗部品を放置する理由はない。また、軽量化のためにアルミ化を進めているギアボックスとの相性も熱膨張(新幹線のような高速運転ではかなりシビアな問題)の関係からあまり好ましいものではない。
 そこで軽量化・メインテナンスフリー化の両面を狙って2200系ではヤマバ歯車を初採用することとなった。ヤマバ歯車は漢字で書くと山歯となるように、ハスバのように斜めに推進力が生まれない。これにより円錐ころ軸受けではなく力が均等にかかる円筒ころ軸受けを使うことができるため、隙間管理の簡略化や軸受けの寿命向上が期待できる。
 今回採用したのは軽量化を優先するため多少の工数の増加を許容した分割式ヤマバ歯車。要はハスバ歯車を2枚、背中合わせにくっつけた構造とした。また、ギアボックスもこれに合わせて小型化し、潤滑油をスムースに流す円形状ギアボックスとしている。
 こういった車両軽量化技術の積極投入によって高速側の10‰均衡速度が2100系より向上しており、津久井湖~都留市間の連続上り勾配を230km/h、同下り勾配を220km/hで走行することをもくろんでいる。これによって新宿~甲府間の最高速度向上とあわせて、5分の短縮を想定している。
 ブレーキは2100系で採用した中央締結式ブレーキディスク。厚さ43mmのブレーキディスクをボルトで中央締結することでディスクの変形を抑えこみ、より高温に耐えられるようにしたものだ。これによって260km/hからの空気ブレーキでの停止を可能としている。
 とはいえ、2100系の場合25‰の下り勾配でのブレーキは、現状の210km/hがブレーキディスクの熱容量的にも限度となっている。これを2200系で10km/h向上するにはブレーキディスクの大径化もしくは肉厚増が必要だがばね下質量の増加など到底認めるわけにはいかない。
 ならば軽量化しかない。そこでヒートポンプの容量を削り、アルミ部材の再検討をはかり、C/IをフルSiC化し、座席をカンチレバー式にするなどまさに「乾いた雑巾を絞る」ような苦労を経て、ボディマウントによる重量増を相殺しなお、1両平均1tの軽量化を達成した。
 電気ブレーキに関してはベクトル制御の回生ブレーキで、これまで同様30km/hまでは回生ブレーキ、それ以下では空気ブレーキと使い分ける。ブレーキ方式は指令線7本の順次加圧方式(総当り式)の電気指令式で、ブレーキ指令線が1本故障しても1段下のブレーキに自動的に切り替わる、安全性を重視したブレーキとなっている。

車内

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▲荷棚のスリットは空調の風道。天井より少しでも低い位置に風道を設置して、空調能力を少しでも助けようという「苦肉の策」だ。そしてドア鴨居につく案内装置は相変わらず三色LEDなのであった。

 普通車の座席はモケットが変わりイメージが変化したものの、基本デザインは2100系の座席を承継している。ただし、足元スペースの確保と軽量化対策のためにカンチレバー式となっているのが大きな違いた。シートピッチは1,000mm、リクライニング角度も31度で従来車両と変わりはない。
 見た目での変化があるのは荷棚で、空調の風道を天井から荷棚の先端に移動している。これまでの車両は荷棚の下に風道があったが、これだと着座している旅客には冷風が行き届くが、混雑時は通路まで冷風が届かず、自由席車両の温度分布に村が発生していた。しかし天井まで風道を持ち上げると、2200系では軽量化のためシングルスキン構造を採用している関係で空調の能力が落ちてしまう。
 そこで妥協案として荷棚先端より通路方向に向かい5度の角度をつけて冷風を噴出す構造とした。これによって車内の温度分布の平均化を狙っている。ところでなぜシングルスキンだと空調能力が落ちるかについてだが、ダブルススキンの風道はダブルス金の内側を通過する。そのためt2.3のアルミ板2枚と断熱材によって風道は保護されているが、シングルスキンではt2.3のアルミ外板の内側を通過する。したがって外気によって熱せられたり冷やされたりした外板の壁を空気が這い上がるわけで、その分外気の影響を受けてしまう。したがってできるだけ低い位置に風道を設置する必要があるというわけだ。
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▲ダブルスキンに比べシングルススキンは図のように外気の影響を受けやすい。そのため空調能力を殺さないためには、できるだけ低い位置に風道を設置することが重要となる。

 ところで2100系のロングシートはかけ心地にはことのほか配慮し、着座においては普通車クロスシートを凌駕するものと自負しているが、横方向へのGが気持ち悪いだのそもそも高いお金を払ってロングシートとは何事かだの、座席の本質とはかけ離れた批判が多く、2200系では採用には至らなかった。したがって車端部は2-3アブレストの座席を車端まで並べることとした。結果貫通扉が片方にオフセットされてしまうが、富士アルプス特急の最急曲線はR=400なので問題はない。
 それにしても座席のレベルよりもイメージが大切であるということは富士アルプス特急の開発者にとっては少なからずショックだったようだ。かつて大阪市交通局が7000=8000型でビニールレザー張りのロングシートを採用し、大不評のうちモケットに戻したことがあった。開発者の手記には『所詮、乗客の意識改造など、出来るものではありません。(『輝きを明日に託して/大阪市交通局互助組合鉄道研究部』)』とあったが、富士アルプス特急の座席担当者も同じ気持ちだったに違いない。

運用

 2017年4月現在1編成が試験運行中で、7月の営業運転開始までには第2編成も登場する予定。2017年度は2編成、2018年度は4編成を投入し、1600系を2018年度までに置き換える予定となっている。また、2019年度以降は2000系のリプレイスも2200系で進めていく予定だ。なお、260km/h運転は一部時間を限定して行なう意向を示しているが、とりあえず7月の運転開始時は最高速度240km/hでの運行となる。

  • 最終更新:2017-06-25 10:37:16

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